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代表より

杉田正明

 世界的に自動車産業の減産が報じられています。クルマ社会を問い直す会の会員としては、クルマの減産は喜ばしいことです。しかし、他方で派遣切り、雇用削減のニュースに対しては、困ったと感じます。
 今回の世界的な不況からの回復は、このままでは従来のライフスタイルの回復になるだけであって、クルマ社会の修正・脱却につながるものにはなりそうにありません。オバマさんのグリーンニューディールも再生可能エネルギーの振興についてはある程度取り組むにしても、クルマからトラム・鉄道へのシフトについてはメニューに計上されていないように見受けます。
 今回の不況を契機に、産業の再編、都市の再編をしていくことが本来は課題であると私は考えています。
 産業再編の基本の1つは、化石エネルギー産業を再生可能エネルギー産業に置き換えることです。製油所・火力発電所・天然ガス工場を、風力発電所・バイオマス発電所・太陽光発電所・バイオマス生産業(林業と農業)・バイオアルコール工場等に置き換えることが必要です。このためには制度が必要です。日本で介護産業が形成できたのは、介護保険の制度を導入したことによります。同様に、再性可能エネルギー産業を本格的に立ち上げるには、電力会社による自然エネルギー由来電力の(採算がとれる)固定価格での買い取り制度の導入と、他方での化石燃料に対する外部不経済課税(あるいは環境税・炭素税)もしくは化石燃料の輸入・生産業者に対するオークションでの排出権割り当てが必要と考えます。
 産業再編の基本のもう1つは、自動車産業を電車産業に置き換えることです。これにも制度が必要です。今会報で別のところで論じたように、クルマの外部不経済に対する新たな規制の導入と、クルマの外部費用に対する課税が必要です。
 産業再編のために必要と述べた上記諸制度については、いずれもその導入には大いなる困難が予想されます。
 再生可能エネルギー産業、電車産業への置き換えに伴って、関連産業においても置き換えが進むでしょう。発電機の関係では、風力発電機や太陽電池は代表商品として大増産されるでしょう。出力変動を調整するための蓄電池や電力を水素に変える電気分解装置も増産されるでしょう。自動車部品に変わる電車部品、道路建設に変わる鉄道建設、自動車関連サービスに変わる電車関連サービスの成長が自然に進むでしょう。
 都市再編の基本は、公共交通なかんずくトラムと徒歩・自転車で暮らせる町作りに向けて再編を行うことです。このためにはトラムと自転車の導入空間の確保・整備にむけて大事業を行わねばなりません。そしてまた、採算性を高めるために、トラム沿線・もしくは公共交通沿線への集住誘導という大事業を行わねばなりません。困難が予想されます。
 さらに自動車産業に替わるべき電車産業の雇用吸収力は自動車産業に比べて大きく下回るでしょう。この点も大きな問題です。ただし、化石エネルギー産業に比べて再生可能エネルギー産業はより大きな雇用吸収力を持つ可能性があります。再生可能エネルギーのコストが高いことが良く指摘されますが、それはすなわち、作り出すのに手間暇が掛かると言うことのはずですから。一方、都市再編の事業は、トラム建設事業のみならず、引っ越し、移転、再配置に伴う建設事業も引き起こし、継続的に相当な雇用を生む可能性が潜在的にはあると考えます。
 私はクルマを全面的に電車・公共交通に置き換えることは想定していません。もともと、救急車や消防車、そして体が不自由な方のための福祉車にクルマが必要でしょう。また、安全性能基準が導入され、交通事故防止機能を装備したクルマ、そしてPM2.5の排出が大幅に減ったクルマ、騒音が大幅に減ったクルマ、再生可能エネルギーで走るクルマ、これらの条件を満たしたクルマが出てくれば、そうしたクルマは交通手段として利用すればよいと考えています。現状はほど遠いですが。
 私たちはこうした課題・諸困難について戦略的にどう考えればよいのか、難しい宿題を抱えていると思います。