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国家公安委員長 古屋圭司 殿

2013年6月12日
クルマ社会を問い直す会
代表 杉田正明

 

古屋国家公安委員長の交通取り締まりに関する発言への抗議声明と撤回要求

 

 古屋圭司国家公安委員長は6月4日の閣議後記者会見で、警察による交通違反の取り締まりに言及し「歩行者が出てくる危険性もない道路で、20km/h超過(制限速度50km/hを交通の流れに逆らわなように70km/hで走るなど)を取り締まるのは疑問」という趣旨の発言をしました。取り締まりのための取り締まりという観点から、この発言を支持する向きも少なくないようです。しかしその内容は、違法行為を容認助長し、事故を増やす危険も包含しており、国家公安委員長としての資質が疑われる重大な誤りがあります。以下にその理由を記すとともに、発言に対して強く抗議し、撤回を求めます。

1.法規制、ルールを軽視する発言である
 ルールを守ることで本人の命や健康が損なわれる恐れがある場合は別として、現在決められている法規制・ルールは守ることは、社会人の果たすべき責任である。古屋委員長の発言は、ルール見直しの必要を言われたものでもあろうが、20km/h以上の制限速度超過を容認している発言でもある。クルマの流れのなかで速度超過が起きるのは当然とする考え方、ましてや20km/h以上という大幅な超過も容認する考え方は、ルールを守って成り立つ社会(ルールを守ることが他の人の行動との摩擦・齟齬を防ぎ社会生活を円滑化する)の原則を無視するもので、きわめて不用意で不適切な発言である。

2.ドライバーの速度超過のリスクに対する認識を甘くさせる発言である
 古屋委員長は「歩行者が出てくる危険もない道路で」という条件付きで話をしているようだが、自動車専用道とは言っておらず、一般道での話をしている。しかも、その条件は極めて主観的なものであり、危険であるかないかの線引きの根拠すらない。
 ところが、数字は往々にして独り歩きする。人間は自分に都合のよいように解釈することが多くあり、歩行者と接点の多い道路においても「国家公安委員長が言うのだから、とにかく20km/hオーバーまではお墨付き、公認だ」と考えるドライバーが出てくるおそれがある。国家公安委員長の不用意な一言は、ドライバーの意識や運転教育に対し、大きなマイナス効果を与えてしまったともいえる。そして、今でさえ低くなっているドライバーの速度超過に対する危険性への認識を、さらに低くする懸念も大きい。

3.速度制限には意味があることを無視する発言である
 最高速度違反による死亡事故率は、事故全体の死亡事故率よりはるかに高いことが明らかにされている(平成24年中の交通事故では21.1倍である)。「最高速度違反による交通事故対策検討会中間報告書(案)」(2010年3月内閣府による)においても、規制速度超過による死傷事故の多さが検証され、速度抑制の重要性が記されている。また、「取り締まりがある」ことによる速度超過の抑制という効果もさまざま検証されている。このような実態をふまえた上で、一般道で速度制限を設定して厳しく取り締まることは、事故防止のため当然のことである。たまたまある道路の歩行者が少ないからといって、安易に取り締まりのための取り締まりと片づけることはできない。

4.歩行者への危険を無視する発言である
 「取り締まりのための取り締まりだ」との意見は、ドライバーからの視点に過ぎず、歩行者にとっては、自動車の速度は速いほど脅威となる。自動車専用道以外では、歩行者が横断歩道のないところでも道路を横断することが認められているが(ドライバーは危ない!と思うかもしれないが、歩行者を危険にしているのは100%車の側であることを忘れてはならない)、その場合にもやはり速度制限は大きくものをいう。
 車と歩行者の衝突事故において、車の速度が30km/hを超すと歩行者の致死率が急激に高まることは警察も周知の知見である。自動車教習所では「衝撃力は速度の2乗に比例する。つまり出した速度の数字以上に、自動車は著しく危険になる」と教えている。国家公安委員長たる者は、むしろそうした点こそドライバーに強調すべきである。

5.免許制度そのものへの不信を増大させる発言である
 自動車はそもそも危険なものであるから、安全に運転する技量を有し多くのルールを厳守する事を誓った者にのみ、公安委員会が「免じて」「許す」のが「免許」である。
 自動車の運転はルールを守る者のみが許され、ルールを守らない者は自動車の運転は禁止されるべきものである。この「ルールを守らない者は運転禁止」という根幹があってこそ運転免許制度は成り立っており、「ルールを守らなくても運転可」という認識が広まれば、免許制度そのものの意味がなくなる。委員長の今回の発言は、自ら免許制度を否定するものでもある。

6.交通安全推進団体への業務妨害ともなる発言である
 警察・自動車教習所・交通安全協会等の交通安全推進団体は「制限速度を守って安全運転を」と交通安全を呼びかけているが、今回の発言はドライバーに「公安が速度超過を認めたのだから」と、呼びかけを無視する口実を与えることにもなる。これは、公安委員長自らが管轄する交通安全推進団体の日頃の努力を無にするものであり、当該団体への業務妨害ともいえる。
 交通事故死者は今もなお年間5000人を超え(事故後30日以内)、深刻な事態が続いている。死者の約半数は歩行者・自転車利用者である。国民の命を守るための安全施策を目指すべき国家公安委員長として、その現実への責任をもっと自覚すべきである。

 以上をもって、古屋委員長発言の撤回を強く求めます。

【追記1】 なお、古屋委員長の発言は、クルマの制限速度引き上げの方向を意図したものとも受け止められますが、制限速度の見直しにあたっては、以下の要件を勘案すべきです。また、当会は、車の利便性よりも生命・健康の保全を最優先すべきとの考えのもとに、制限速度についての提案をこれまでも警察庁などに提出しています。交通事故による死傷を減らす最も有力な手段は走行速度の抑制であることをふまえ、ご検討ください。

●制限速度を見直す場合の要件
 制限速度見直しには、ドライバーだけでなく、他の道路利用者「歩行者、自転車利用者、沿道周辺住民」の安全と健全な社会生活が十分守られなくてはならず、以下のような彼らも納得できる規制の検討が重要である。

1 交通事故の防止、交通事故時の被害の軽減
 上記4にも記したように、車の速度が30km/hを超すと衝突時の歩行者の致死率が急激に高まる。車同士の衝突においても、速度が速いほど事故は回避しにくく、被害も大きくなる。低い速度に制限することは、車、歩行者、自転車利用者、だれにとっても事故防止、事故被害軽減に極めて効果的である。

2 道路を横断する歩行者・自転車利用者への横断のリスクを判断する目安の提供
 これも上記4にも記したように、一般道路では横断歩道以外でも歩行者の横断が認められている。制限速度は、横断者にとって横断するか否かを決める判断材料になっていると考えられる。低い速度に制限することは、歩行者等横断者にとってメリットが大きい。

3 沿道への騒音・排ガス汚染など環境破壊の抑制
 既存の研究成果を活用し、新たに調査も加え、制限速度設定の判断材料とすべきである。

●制限速度についての当会の提案
◎制限速度の標識がない道路の最高速度(法定最高速度)を現在の60km/hから30km/hに引き下げる(30km/hを超える速度を認める場所については、それぞれ当該の標識を設置する)。
◎通学路の指定がなされている道路については、30km/h以下の速度規制を行う。
◎市街化区域内の歩道が分離されていない道路については20km/h以下の速度規制を行う。
◎(歩道がある道路において)自転車レーンが設けられていない場合においては、自転車走行の安全性を高めるため、車両の最高速度を20km/hに制限する。
*当会は制限速度の遵守については「すべての自動車に制限速度遵守装置(ISA Intelligent Speed Adaptation技術の採用)の搭載を義務づけること」も提案している。

【追記2】当会は本年1月に「交通弱者を守る自動車運転教育についての要望」を国家公安委員長、警察庁等へ提出しました。それに対して国家公安委員会から「ご要望については参考として警察庁の関係部門に回付しました。国家公安委員会としても引き続き、交通の安全の確保にむけた各種施策が推進されるよう取り組んでまいります」との回答が3月14日付で寄せられましたことを、付記いたします。



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