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国家公安委員会委員長殿
警察庁長官殿
内閣府政策統括官(共生社会政策担当)殿

2011年9月20日
クルマ社会を問い直す会

自動車運転免許取得・更新時の、
医学的・技能的・資質的運転適性検査の義務化を求める意見

 

 本年(2011年)4月に、クレーン車の運転者がてんかん発作による意識障害に陥り、小学生の列に突っ込んで6人の児童を死亡させるという悲惨な事故が起き、本来運転免許を交付されるべきではない者に免許が与えられている現実が表面化しました。また一方で、健常者であっても運転技能や資質面での運転適性の欠落に起因する事故も頻発しています。
 自動車の運転は一瞬のミスで人を死傷させる危険を有するので、危険を生じさせないための「安全弁」として運転免許制度は存在しなくてはなりませんが、現実をみるに、免許交付に関する法律にもその運用体制にも不備があります。それによる理不尽な犠牲者をこれ以上生み出さないための抜本策の1つとして、次の対策を求めるものです。
 以下の要望対策は、他国にも類のない厳しいものであると思われるかもしれませんが、世界中の交通事故による死者は年間約130万人にのぼり(世界保健機構による)、交通事故防止は人類全体の喫緊の課題でもあります。世界に先駆けての前向きな取り組みを、ぜひともお願いいたします。

【要望意見骨子】
1:運転免許取得および更新をしようとするすべての人に「医学的運転適性検査」(*注1参照)を義務づけ、一定基準を満たすことを免許証交付の必要条件とすること。また、事故や交通違反により道路交通法第九十条に記された病気等の疑いが発覚した場合も、この検査による評価を義務づけること。
・検査は各人が地域の指定医療機関で自費で受け、免許取得・更新時に公安委員会に所定書式の診断書提出を義務づけることとする。
・てんかんなど病状による運転適性の可否基準が政令で定められている病気で運転可能とされる病状の場合は、病状に関する医師の診断書を定期的(例:1年に1度)に提出することも併せて義務づける。また、運転可能と認められる場合も大型免許・二種免許は取得できないことを、法律に明記すること。
・すでに合格基準の設けられている視力、聴力、運動能力、色彩識別能力検査は、2011年7月時点の基準を維持すること。

(*注1)医学的運転適性検査・・・道路交通法の第九十条に記されている幻覚を伴う精神病、発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気、認知症(年齢を問わず)、アルコール・麻薬等の中毒者など、運転に支障を及ぼす可能性のある病気・症状の発見につながる、自動車運転免許専用の検査を新たに設ける。検査内容(脳波検査・画像検査・血液検査・尿検査等必要なもの)および免許交付可否の基準については、複数の専門医等の検討によって定める。

2:運転免許取得者で交通違反により事故を起こした者、罰金刑対象者、免許停止対象者、違反者講習・初心運転者講習の受講該当者など、および免許更新をしようとするすべての人に、「技能的・資質的運転適性検査」(*注2参照)を義務づけ、一定基準を満たすことを免許交付の必要条件とすること。
・検査は各人が地域の指定機関で自費で受け、公安委員会に所定書式の診断書提出を義務づけることとする。

(*注2)技能的・資質的運転適性検査・・・現在、旅客自動車運送事業運輸規則、および貨物自動車運送事業輸送安全規則で職業運転者に義務づけられている適性診断のように、運転動作・判断力、安全運転態度、注意配分力、危険感受性、性格的適性などを問診や運転シミュレーターなどによってみる、自動車運転免許専用の検査を新たに設ける。検査内容・方法は、評価の信頼性・平等性の高いものを専門家の検討によって定め、免許交付の可否基準は交通違反の程度に比例して厳しくする。

3:1、2の実効性を高めるため、上記の義務違反や虚偽が発覚した場合は、免許取り消しおよび相応の刑罰を科すことを法律に明記すること。検査機関に不正があった場合も相応の刑罰を科すことを法律に明記すること。

4:仕事のために運転免許を行使させる雇用者が道路交通法第4章(運転者及び使用者の義務)または貨物自動車運送事業法で定める安全規則を徹底して遵守するよう、所管省庁による指導・監督責任体制を強化すること。

【要望意見の理由について】
〔1〕問題の多い、道路交通法とその運用実態
a:医学的運転適性に関して
2011年4月18日、栃木県鹿沼市で登校中の小学生の列にクレーン車が突っ込み、6人の児童が亡くなる痛ましい事故が起き、次の事実が発覚しています。
・事故は、運転手(26歳男性)が持病のてんかんの薬を飲み忘れて発作を起こし、意識を失ったことにより起きた。てんかん患者は免許取得時に申告義務があるが、加害者はてんかんの持病の申告をせずに運転免許、しかも大型特殊免許をも取得している。
・加害者は過去にも6〜7件の事故を起こしている。うち1件の児童に重傷を負わせた事故の際は、てんかんによる意識障害の疑いを医師が警察に伝えたにもかかわらず、警察は本人の供述(病気を否定)を信じて追求確認を怠り、居眠り運転として捜査・起訴し、裁判所もそれを認定した。この警察の対応も、事故再発に結果的に結びついた。

 このほかにも、運転者のてんかん発作による事故は同じ4月に島根県で(歩行者2人が死傷)、翌5月には広島県で(集団登校中の児童4人が重軽傷)、前年12月には三重県で(踏切待ちの自転車が線路に押し出されて3人が死傷)など、報道で見るだけでもわずか半年ほどの間に頻発しており、歩行者や自転車利用者が多数巻き添えで犠牲になっています。

 道路交通法第九十条では、「幻覚の症状を伴う精神病であって政令で定めるもの」「発作により意識障害又は運動障害をもたらす病気であって政令で定めるもの」「そのほか、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの」、また、認知症、アルコール中毒者、麻薬等の中毒者などについては、免許を与えない、または保留とすることができると定めています。てんかん患者については4つの条件(過去5年間に発作がなく今後もその恐れがないと医師が診断した、等)を満たす場合は、免許取得は認められます。
 この法律がどのように運用されているかをみると、免許取得・更新の申請時にこれら病気の有無や症状を「申告用紙に記入する」ことが義務づけられています。しかし、この申告は義務とはいえ「自己申告」です。上記加害者はてんかんの持病の申告をしませんでしたが、現行制度では真偽の確認はできず、しかも、虚偽申告をしてもなんの罰則もなしです。
 さらに、今回の事故で露見したのは、加害者が過去に何度も事故を起こし、てんかんの疑いおよび病気申告義務違反の疑いが発覚したにもかかわらず、警察も裁判所も本人の言葉を鵜呑みにして追及も確認もしなかった、という事実です。すなわち、現在の道交法は実効性がきわめて弱いうえに、適正な運用努力もなされていないというのが現実です。

 また、現在免許更新時に行なわれている高齢者講習予備検査(認知機能検査)についても、本来認知症のドライバーを減らすことが狙いであるにもかかわらず、「記憶力、判断力が低くなっている」(最低レベル)と判定されても高齢者講習を受ければ免許更新はできるという、甘いものです。これでは、高い講習料をとり、講習教官に手間と時間を費やさせても、事故を未然に防ぐ効果は希薄です。
 ほかにも、睡眠時無呼吸症候群、低血糖、アルコールや薬物の依存症等が原因とみられる重大事故も数々起きており、道交法第九十条が充分に機能していないことを示しています。

b:技能的・資質的運転適性について
 もう1つの課題は、運転者の技能的・資質的な問題です。交通事故の原因を見ると、自動車運転者の法規違反が95%を占めており、中でも安全不確認、脇見運転、動静不注視、運転操作不適など、運転に必須の基本的技能、安全意識・注意力などの欠如した運転による事故が大半です。この現状は、技能的・資質的に運転適性に不備のある者にも免許が交付されている現実を現しています。

 現在、事業用自動車の運転者には、運転適性検査が義務づけられています。この検査は、運転の動作・判断力の正確さや早さ、安全運転の態度、注意配分、危険感受性、性格的な課題等さまざまな面から運転適性をチェックし、問題点の是正を促す目的で実施されています。検査の結果、成績が悪く再教育の必要な者は少なくないようです。
 このような検査を義務づけているのは、免許取得時・更新時に審査されるべき技能的・資質的適性がチェックしきれておらず、また、免許取得後に明らかになる問題も多い(慣れによる慢心なども含む)ためでしょう。そしてこの現実は、事業用自動車の運転者に限らずすべての運転者に通じるものであることは、日々の事故を見ても明らかです。したがって、事故を減らす対策として、本来はすべての運転者がこうした適性検査を定期的に受ける必要があると考えます。とりわけ事故を起こした者や違反者には、より周到な検査が求められます。

〔2〕免許資格の基準の厳格化は、事故防止の基本
 自動車は走る凶器ともいわれ、一瞬のミスで人を死傷させる危険物となります。「運転免許」は人の命を左右する重みを背負ったものであり、事故を防ぐ安全弁として働かなくてはなりません。その資格を持つには、高い運転技能・資質、一定の身体水準、体調の安定が求められるのは当然のことです。
 電車の運転士や飛行機のパイロットは、運営組織の下で健康診断および技能の検査・訓練を受け、運転時も複数の目の管理下におかれ、不測の事態に対応できる体制が整えられています。しかし、自動車の運転者は、健康診断も本人任せであり、運転時の体調も、運転操作の違反やミスすらも監視する者がいない状態で運転が許される――この違いが、日常的な事故頻発の原因の1つともいえます。急な体調異変などが起きても1人では対応できません。
 しかも、走行空間の大半は歩行者や自転車と接触する危険が多く、事故の巻き添えで最も被害を蒙るのは歩行者・自転車利用者です。現実に、交通事故による年間の死者約6500人のうち半数は歩行者・自転車利用者です(過去5年間の統計。死者数は事故後30日以内)。
 このように、自動車は「他者と接触して危害をおよぼす可能性に満ちた空間を、だれにも管理されずに運転できる」ものであるからこそ、免許交付時や更新時の資格基準とそのチェックは厳しくあるべきです。要望意見骨子1〜3に記した医学的運転適性検査、技能的・資質的運転適性検査の義務化と、違反した場合の刑罰強化は必須であると考えます。

 また、鹿沼市の事故では、雇用者が職業運転手として雇う人間の健康管理・安全運転管理を怠っていた点も問題です。雇用者が仕事で被雇用者に運転をさせる場合、体調管理や安全運転指導、過重労働禁止などの義務が道路交通法や貨物自動車運送事業法で定められていますが、違反は常態化しており、それによる事故も多数起きています。法律を遵守させるためには、要望意見骨子4に記したように、所管省庁による指導・監督責任体制の強化も必要です。

〔3〕多様な移動交通手段の整備が、差別の少ない社会への道筋
 特定の病気や障がいによって運転免許交付を制限することに反対する人や組織もあります。反対理由として「病気はセルフコントロールできる人もいる。運転能力は個人の適性の問題であり、試験で評価すべき」という意見があります。しかし、道交法第九十条に記されているような病気は、環境の変化などで突然症状が起こる場合もあるといわれています。専門医による基準に従うことは、「命最優先」の観点でみればやむを得ないことです。
 また、他の理由で多いのは「車は現代生活では必需品で、免許がないと日常生活にも支障をきたし、職業選択の幅も狭められる。障がいや疾病での免許交付制限は差別や偏見を助長し、社会参加が制限される」という主張です。2002年に道交法で欠格事項の改正が行なわれた際にも、障がいや疾病のある人の社会参加の促進が趣旨としてうたわれ、参議院では「運転免許の適性試験・検査が障害のある人にとって事実上の免許の取得制限や障壁とならないよう、科学技術の進歩、社会環境の変化等に応じて交通の安全を確保しつつ運転免許が取得できるよう、見直しを行うこと」(一部略)という付帯決議が採択されています。

 しかし、自動車とその運転免許がないと生活にも不便、職業も制約されるという社会は肯定すべきものか、その構造にだれもが努力して合わせることが望ましいか、という検証が必要です。むしろそのような社会は、病気や障がいのある人のみならず、高齢者や未成年者、経済的に逼迫した人、その他さまざまな理由で車を運転したくない人やできない人に、不自由や差別、無理を強いる社会です。障がいや疾病を持つ人も車の運転ができたほうが社会参加しやすいとするなら、同じ障がいや疾病を持つ人でも運転できない人の不利を暗に認めることにもなります。運転に適さない人も背伸びをして運転せざるを得なくなれば、その人は一般より高い事故を起こすリスクを常に自己責任で背負わなくてはなりません。
 どのような状況下の人々も、基本的な社会生活を送るために最低限必要な移動交通手段(公共交通・福祉交通など)を少ない負担で利用できるような仕組みを整える―その社会整備こそが、差別を少なくし、障がいのある人の社会参加をも助けることにつながります。そしてなにより、交通事故犠牲者の削減、人の命と健康の尊重につながります。国や自治体にはその実現に向けて努力する責務があり、国民はそれを求める権利があると考えます。

 以上

足立礼子(クルマ社会を問い直す会世話人)



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